ルポ“正社員”の若者たち―就職氷河期世代を追う

「ルポ“正社員”の若者たち―就職氷河期世代を追う」小林 美希岩波書店

アマゾン購入感想

一気に読みました買って一気に読んでしまいました。ここにはたくさんのルポがあり、それぞれの人に共感しながら読みました。まえがきにある構造的な背景は勉強になりました。たくさんの労働者の想いを乗せた筆力に圧倒されました。筆者の方は、いろんな業界を見つめ、そして政策についても目を光らせます。ニートやフリーター問題が騒がれ、その対策になった政府のジョブカフェではリクルートが日給12万円もの費用を国に請求していたなんて、ひどい話です。これからも、どんどんこうした不正を暴いていって欲しいです。この本を読み終えて、登場人物の生き方から自分も頑張れば何かできるような気がしました。克明に時代を描くこれ以上のルポはないと思います。筆者の正義感やジャーナリスト精神に感服しました。

焦点が絞れていない1.この本の長所
(1)まず、副題の「就職氷河期世代を追う」はクリアしていると思う。すなわち、主内容は、いわゆる「就職氷河期世代」(定義はこの本にて)を追っかけたルポルタージュである。
(2)公平に書こうとする姿勢は感じる(たとえば、p87l5〜l8)。

2.この本の短所(一言でいえば、焦点が絞れていない。それを個別に書くと、たとえば、)
(1)「「正社員」の若者」たち」からすれば、問題は、(ア)正社員と言っても、実態は社会保険がなかったり、だとか、(イ)正社員の労働環境の苛酷さがほとんどになるはずだが、多岐にわたりすぎており、拡散している。
(2)若者の雇用環境が厳しくなった原因のひとつには、正社員の既得権の問題もあるはずだが(解雇が難しいので、若年層にしわ寄せが来る)、正社員=善のトーンに貫かれているので、その批判が不徹底だと思う。
(3)これも抽象論で申し訳ないが、正社員=善、非正社員ならびに失業者=悪とも読める部分がある(たとえば、p170において著者の批判がない)。雇用のしわ寄せは、正社員のみならず、非正社員や失業者にも行くのだから、非正社員ならびに失業者=悪であってはいけないだろう。

3.結論―長所星4つ、短所星2つ、全体として星3つ。

全体として勉強不足 前著で非正社員に甘んじている若者たちにスポットをあて、今度は正社員になってもやはりこきつかわれる若者を描いている。ルポ自体は、よく描けているし、自分の子供が同じ目に合うリスク(かなり高いのではと心配している)を考えると恐ろしくなるほどだ。
 ただ、ルポにでてくる正社員の業界が、人材派遣や介護、看護、消費者金融などいかにも大変そうな業界に偏っている。もし、正社員になっても若い世代が大変な目にあっていることを言いたいのなら、商社や自動車メーカー、大銀行の幹部社員など、「勝ち組」と目されるような正社員もルポすべきではないか。彼らも相当にしんどい目に合っている。違いは給与が高いことくらいだろうか。また、富山県の話はいったい何なのか。富山県の取り組みによって若者のきつい労働が改善されるとはとうてい思えない。それにその富山県でも半数は県外に就職しているわけだし。介護や看護の問題を産業政策ととらえているのもおかしな話。どう考えても再分配を中心とする社会保障政策の問題だと思うのだが。最後に一つだけ。「はじめに」で、賃金構造基本統計調査を引用し、大企業の大卒社員では30代に残業が集中していると書いて、若者にしわ寄せがいっていることの証拠にしているが、40代になったら、管理職になるので、残業がつかなくなるだけ。その管理職は残業がつかないだけで、5時に帰っているわけではない。会社によっては、若者以上に働いている。また、中卒や高卒を見れば、取り立てて30代に残業が集中してないこともわかるはず。簡単な統計も読めないとのかと思ってしまう。意図的ならずるいし、知らずに書いているなら勉強不足。どちらにしても、この統計の箇所でぼくのこの本に対する信頼度は下がってしまった。

世間を動かせないルポ前作「ルポ正社員になりたいー娘息子の悲惨な職場」でも偏ったルポだったけど、
この2作品目も著者の見たい側面だけでルポしている。
自分が見たい所だけしか聞こえないルポなど、一部の人しか心を動かせない。
私には若者が置かれた現状という名の、著者の問題にしか見えない。
小林美希の自尊心を満たすために書いたようにしか思えないルポで、本当に若者を窮状として世間など動かせやしない。

前著よりもバランスは良くなったが、経済政策と労働政策の研究が足りない。著者の成長が窺われる労作である。前作よりも政治的偏向が薄まり、取材先のバランスが改善した。著者なりに改善したのだろう。だが経済政策・労働政策についての理解が余りに足りないのが残念。また、先進国での賃金抑制は全世界的な傾向であり消費者の責任も大きいのが実態である。
勝者の代償―ニューエコノミーの深淵と未来

女性労働力の活用とWLBが進展している欧米諸国は例外なく「過酷な低成長期を経ている」か「税率が高過ぎて共働きせざるを得ない」かのいずれかだ。教育・福祉部門で女性の雇用を大量に生み出している北欧は凄まじい高税率であり、予算と制度の問題に言及しなければアンフェアだろう。間接税で雇用を改善するという視点もある筈だ。

成長政策についても、近年は「選択と集中」「政策介入」が主流であり、著者のように「成長する分野は勝手に成長する」などと主張する専門家は聞いたことがない。アイルランドやフィンランド、シンガポール、或いはドイツの事例の研究を望む。
資本開国論―新たなグローバル化時代の経済戦略

当書には経営者や中間管理職への不満が滲み出ており、未来を拓ける人材の登場が少ない。著者の無意識的な選択の結果ではないのか。悪辣な企業を社会的に追い込む、或いはより良心的な企業への人材移動を促進するという観点こそ必要である。城繁幸氏の指摘通り、「人件費は所詮パイの奪い合い」であり「50代以上の正社員の高給を維持するために非正規社員が利用されている」のである。言説以上に、新しい雇用と企業の出現が必要だ。
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書 (708))

また、管理職を「やる気がない」と乱暴に批判している点は非常に不用意である。著者はどう見てもマネジメントを理解しておらず、そもそもその経験がない筈だ。トリンプの吉越氏のように実績をあげた人物に取材すべきではないか。
「残業ゼロ」の仕事力

日本の平均賃金が世界最高レベルであることは統計で容易に確認できる。問題は賃金体系や法制、長時間労働、再配分の問題であり、メリットを明示して経営層を(罵倒ではなく)説得しなければならない。著者は、安定収入にありついた者の他者への無関心、労働者のキャリア意識が十人十色であること、そして自らが労働経済をよく理解していないことを知っている筈だ。低成長期のグローバル経済において雇用を改善するというマジックがどこまで可能か、よくよく考える必要がある。

※ 修正できなかったので、こちらで修正致します。三つ星ではなく、四つ星です。正義感には五つ星ですが。。

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