反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)
「反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)」湯浅 誠岩波書店
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強い社会をつくるために貧困の問題に関心を寄せている。非正規労働者が全労働者の3分の1を占めるまでになった日本社会で,働いても働いても人間らしい暮らしができない人々が急増している。世界経済が失速し,企業の業績が急激に悪化しており,非正規労働者の突然の解雇が連日マスコミで報道されている。雇用,社会保険(雇用保険,健康保険,厚生年金,労災など),公的扶助という3つセーフティネットが機能していなければ,一たび職を失うといっきに最下層の生活に転落する危険があるという。社員寮を追われ,住む所さえ確保されない場合には,まさに生存そのものが脅かされる。解雇された人の中には,40歳以降の中高年の割合が高い。子育てや親の介護など,家族に対する責任が重くのしかかる時期である。
1990年代以降,企業は国際競争に打ち勝つために,非正規労働者を増やし,正社員の数を圧縮することでコスト削減を進めた。国は相次いで規制緩和を行い,あらゆる業界での非正規雇用が一般化した。しかし,社会保険料の負担を嫌ってこれに加入しない企業もあり,労働者にとってはいつ契約が打ち切られるかわからないため,生活はいつまでも不安定のままだ。
何かが間違っているし,このままではいけないと改めて思う。新しい考え方,新しい価値観を見出し,社会のあり方,ひいては政治の方向を構想していく時期がきている。湯浅は,皆がこの問題に関心を持ち,連帯し合って,ともに「強い社会」を作ろうと読者に強く呼びかけている。多くの人にぜひ手にとって読み,この問題(貧困)について深く考えてほしいと願う。
湯浅は,生活に困窮した状態を“溜めがない”状態と表現した。この“溜め”は見ようとしなければ決して見えないものであると言う。私は大学に勤務しているが,日々接している学生の中にも,何とか学費を捻出し,過重なアルバイトをしながら学んでいる者も多い。大学は社会の縮図であり,貧困の問題は決して他人事でもなく,どこか別世界で起きている問題でもないと感じている。平成20年度大沸次郎論壇賞受賞(朝日新聞社)。
現代日本社会の負の象徴をあらわしている社会的弱者に対するセーフティネットの必要性を説いている。本書を読めば、日本社会がいかに敗者復活が厳しいかわかるだろう。これに合わせて、同じ岩波新書の「ルポ 貧困大国アメリカ」を読めばより一層現代社会の問題点を理解できるでしょう。
大仏次郎論壇賞受賞作08年大仏次郎論壇賞受賞作である。5重の排除や「溜め」の概念を生みだした湯浅氏の功績はすばらしいが、私が湯浅氏の著作の中で、一番に感心したのは、自己責任論にまっこうから向かっているところだ。湯浅氏も認めているように、実は貧困な人ほど、自己責任論にはまってしまっているのが、日本社会である。それがなぜなのかについての湯浅氏の考察は素晴らしい。(その点は、この本だけでなく氏のさまざま他の著作からもうかがえる)。そうした意味では、5重の排除のうち自己からの排除がもっとも強烈であり、それを生み出す社会構造を洞察していくことが必要だ。
不景気、不況と言われる中で未曾有の不況と、大企業を中心にした大量の解雇問題など、悪循環を目の当たりにしながら、まだ何とか組織の中で頑張れている一人としても、本書の問題提起は他人事ではありません。企業内では個々人の成績がすべて数値化され、比較され、ときには非難される。そうしたなかで、サラリーマンと言えども、一人一人切り離され、お互いに言葉をかわしながらバックアップしあっていくという姿勢が急速に失われていると感じられます。そこで追い詰められていけば、自分からも疎外され、すべてが金だという考え方からくる非難を、自分への否定として内面化してしまうということが起こります。「貧困」は貧困者だけの問題ではない。この国の全体の問題なのだと目を見開かされます。困難ですが、正気を失わずにできることからしていくしかないと痛感させられます。自分のためにも、他者のためにも。
キーワードの「溜め」について時給700円のコンビニでも一日10時間働けば7,000円,月に25日働けば175,000円になる。1人暮らしならば十分やっていけるじゃないか,(実際,自分はそれ以上働いているし)貧困者は忍耐力と努力の足りない人間だ,と私はまさに自己責任論で貧困問題を眺めていた。が,この本を読めばその認識は覆される。
この本のキーワードの1つは「溜め」である。これをアマルティア・センのいう「潜在能力」に似た概念と筆者は言う。金銭的な「溜め」にとどまらず,友人や家族という人間的な「溜め」,自分への自信などの精神的な「溜め」などを通常我々は持っている。社会保障などのセーフティーネットもその「溜め」の1つであろう。これは何か突発的なことが起こった時の緩衝材の役目も果たす。多くの貧困者はこの「溜め」がないために,病気などを契機に一直線に滑り落ちていくのである。
この話は身につまされた。現在,私は何とか家族を養っていけるほどの収入があるが,これまで貧困者へ転落する危機が何度かあった。たまたま運良く「溜め」があったおかげでそうならずに済んだだけである。
そして今の社会は意識的・無意識的に「溜め」をどんどん無くしていっている。しかし社会の制度としての「溜め」は,「健康で文化的な最低限度の生活を営む」うえで不可欠である。「溜め」の社会的な整備が必要であるが,わが国ではまだそのスタートラインにも立っていないという危機的な状況にあることを,筆者は冷静な筆致だが,熱く伝えてくる。良書である。
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